成年被後見人の遺言~意思能力の有無
こんにちは。本日は、成年被後見人の遺言について説明します。
◎成年被後見人の遺言
1.手続
・成年被後見人が、遺言を作成する場合、各遺言個別の要件を満たすほかに、以下の要件を満たす必要があります。
①成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復したときに遺言を作成すること
②医師2人以上が立ち会うこと
③遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、署名・押印すること。秘密証書遺言においては封紙にその旨を記載し、署名・押印すること
・この点、民法973条は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言いずれにも適用されますが、成年被後見人が、いつの時点において事理を弁識する能力を一時回復している必要があるかについては、遺言の種類ごとに異なります。
・自筆証書遺言では、遺言者が、遺言書の全文・日付・氏名を自書し押印する際に、能力を回復している必要があります。公正証書遺言では、公証人に遺言の趣旨を口授するところから公証人が署名・押印するまでの全体で能力を回復している必要があります。秘密証書遺言では、遺言書本文の作成と遺言証書を封じた封書を公証人及び証人2人以上の前に提出し、公証人が署名押印するまでの間に時間が空く可能性がありますが、封書を公証人に提出したときに、能力を回復している必要があると考えられます。医師は、遺言者がそれぞれ能力を有していなければならない間、間断なく立ち会っている必要があります。
・なお、医師は、立会人になりますので、証人及び立会人の欠格事由に該当する医師は立ち会うことができません。
・よって、認知症の老人が、遺言を作成する場合、遺言者が成年被後見人となっている場合は、民法973条の手続を経る必要が生じます。成年被後見人となっていない場合、民法973条の手続を経る必要はありませんが、後日遺言の無効が争われるリスクを軽減するには、民法973条の手続に従って作成する方が良いと思われます。
2.意思能力の有無の判断
・いかなる場合に、意思能力を有し、事理を弁識する能力を一時回復していたかの判断は事案ごとの判断になります。公正証書遺言によったとしても遺言能力を有さないという事案はあります。遺言能力の有無の判断要素は、遺言者の年齢、病状の推移、遺言作成時、前後の様子、発病と遺言時との時期的関係、遺言時及びその前後の言動、日頃の遺言についての意向、遺言内容等になります。例えば、名古屋地裁岡崎支部平成5年5月27日判決(判時1474・128)は、脳梗塞になり禁治産宣告(現行:成年後見)を受けた遺言者が、脳梗塞後、判断能力が日によって好転と悪化を繰り返していたとした上で、遺言作成時には、判断能力が良好な状態であることを医師が確認したものとして、遺言作成時には判断能力を有していたと認定しています。
本日はここまでとします。次回、被保佐人・知的障碍者の遺言に続きます。
またのご訪問お待ちしております。
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